2025/01/18 14:40
19世紀まで全世界で最も高価な生地は何だったのかご存じでしょうか?
シルク?カシミヤ?ウール?…
いえ、
「ダッカ・モスリン」です!!
なんとも可愛らしい名前でモフモフしたキャラクターのイメージが湧きますよね。湧かなかったらイメージしてください。
このダッカ・モスリンは何かというと実は綿(コットン)のこと。
生地に金粉が塗してあるとか、伝説の動物の毛でもなく、コットンが最も高価だったことに驚きますよね。
ただ普通のコットンではなくバングラデシュの首都であるダッカの南部地区のみで育てられた綿の変種のこと。
そして「モスリン」というのは薄手の綿織物を指しています。※モスリンのwiki

モスリンを羽織った女性(By Francesco Renaldi - Own work, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=25871239)
つまりダッカ(綿)で織られたモスリンが、200年近く前は地球上で最も価値のある生地だったのです。
その価格は1mほどの生地でなんと約570万円(当時の価格換算で)。
というのもこの「ダッカ」。バングラデシュのメグナ川のほとりに沿ってしか育たない非常に珍しいコットンで、気候などあらゆる条件をクリアしないと育たない。そのため他の国や場所では栽培できない特別な綿花でした。

メグナ川(Pfly - https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15068725による)
さらにそれを生地にするには16個ほどの複雑な工程を踏まなければならず熟練した技術が必要。それがすべて可能だったのがダッカの南部地区のみだったのです。
ダッカ・モスリンは非常に薄くて上質であるため、この生地で作られたモスリンのサリーにはそのまま1着1つのマッチ箱に収められるものもあるそう。
また薄すぎるが故に高齢者は糸を見ることができないため、高齢になると糸が紡げず、さらに高い湿度が求められるため早朝と夜遅くにしか糸を紡げないというハードな難易度っぷり。
プロセスを考えると高価格になるのも納得です。
このダッカ・モスリンのおかげで当時のインド(まだバングラデシュではなかった)は莫大な富を築き、18世紀まで世界で最も裕福な帝国の1つとしての地位を確立できました。
そもそもなぜコットンが人気だったのかというと、当時のヨーロッパには羊毛やリネンで作られた衣類が主流で暖かさはあるものの非常に肌触りが悪く、とても重たかった。
各国で貿易が盛んになるとコットンという生地にヨーロッパの人々は感動し需要がとても高まったのです。
その中でも極上の肌触りのダッカ・モスリンが貴族の間で大人気になりました。マリーアントワネットやナポレオンの最初の妻であるジョゼフィーヌ・ド・ボアルネトのお気に入りだったとあるのでセレブからの人気ぶりがわかります。

ダッカ・モスリンを着るジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ(Credit: Alamy)
すごい気になりますよね?
こんな世界を巻き込むほど人気だった生地は現代ではどうやって触れるのか、買えるのか。
しかし残念ながら、現在ダッカ・モスリンは存在しません。
なぜならイギリスの植民地的支配を受けてダッカモスリンに使用する特別なワタの品種も、生産するのに必要な複雑で難しい技術も失ってしまったためです。
ほんとうに悔しい。
ただ現在ダッカ・モスリンを再現しようといろいろな方が動いているので、もしかしたら将来普通に購入できるようになるかもしれませんね。
その時は高額にならないことを祈ります。
